毎月分配型投信「第4世代」のひどすぎる手口(DIAMOND online「山崎元のマルチスコープ」)
普段(?)はカンボジアの不動産投資やワイン投資を推奨している内藤忍さんですら「買ってはいけない!」と警鐘を鳴らしているぐらいですから、どれほど問題のある商品かわかるというものです。
「進化」した「4階建て投資信託」は買ってはいけない!(SHINOBY'S WORLD)
問題点は山崎氏の論考でほぼ言い尽くされています。わたしも以前からこういった商品は極めて不誠実な商品だと思い、ブログでも問題点を指摘したことがあります。
【関連記事】
毎月分配型投信の正しさと愚かさ 2
とくに問題だと思うのは、こういった投信を購入している人が、はたしてオプション取引の怖さを認識しているのかどうかがじつに怪しいことです。とくにオプションの「売り」は、俗に“99勝1敗でも全財産を失う可能性がある”とさえいわれるハイリスクな投資手法です。ここ数年は上げ相場が続いているので目立ちませんが、相場に大きな変動があった場合、大きな損失が発生する可能性があります。「三階建て」「四階建て」投信は、そのうち大変なことになるのではという懸念でいっぱいです。
「三階建て」「四階建て」投信とは、株・債券・REITなど通常の資産への投資(一階)、高金利通貨取引(二階)、投資資産のオプション取引(三階)、高金利通貨のオプション取引(四階)を合わせて行うことで高水準の分配金原資を作ろうと設計された投資信託です。そもそも通常資産への投資にわざわざ為替取引を加えるだけでも商品設計の整合性が疑わしいのですが、さらに問題なのがオプション取引によるプレミアム収入を得るという手法です。
オプション「売り」の損失は無限大ですよ
オプション取引には「買い」と「売り」がありますが、このふたつはリスクの度合いがまったく異なります。オプションの「買い」は一定のプレミアムを支払うことで相場に予想外の変動が起こったときのダメージをヘッジする手法なのに対して、オプションの「売り」は一定のプレミアムを得る替わりに予想外の相場変動が起こったときに利益は放棄しながら損失リスクは無制限に負う仕組みです。このあたりの仕組みは、少し古い記事ですが足立武志さんが分かりやすく解説しています。
オプション取引の基礎知識(1) 効果的なオプションの買い方とは
オプション取引の基礎知識(2) オプションの売りがハイリスクの理由とは?
(「知って納得!株式投資で負けないための実践的基礎知識」楽天証券)
これを読めば、オプション取引がどれほど危険なものかがわかるでしょう。とくにオプションの「売り」は、プット・オプションだろうがコール・オプションだろうが、プレミアムを受け取る替わりに相場が目論見通りに動いたときの利益を放棄しながら、反対方向に動いたときの損失は無制限に引き受けなければなならないという点は重要なポイントです。
通常、相場が大きく動かない、あるいは一定方向に動いているときには、オプション取引の「買い」はプレミアムを支払うだけのケースが多い。投資家からすれば損しているわけですが、相場変動に対するリスクヘッジのコストとして正当化されます。しかし、四階建て投信などは分配金の原資を確保するためにオプション取引を行っているわけですから、おそらく「売り」が多いと想像できます。相場が大きく動かない、あるいは一定方向に動いているときには安定的にプレミアム収入を得ることができるので美味しいように思えるのですが、じつはプレミアムを得る替わりに相場変動によるキャピタルゲインを放棄しているのですから、トータルでみれば得なのかは微妙でしょう。その上、目論見と反対方向に相場が大きく動けば損失は無限大ですから、リスクとリターンのバランスはかえって不利になるとも言えます。
オプション取引の仕組みが分かっていれば、三階建てや四階建ての投信がどれだけ危険な商品かわかるというものです。それなのに巨額の資金が集まってしまうのはどういうことでしょうか。受益者がよほど奇特か、オプション取引の仕組みを理解していないかどちらかです。販売会社はリスクを説明したというでしょう。しかし、説明を受けた人が理解できていない説明は、それ自体が無意味です。少なくともフィデューシャリー・デューティーの観点から不誠実です。
運用報告書(全体版)の「損益の状況」を見れば恐ろしいことが起こっている
四階建て投信の受益者のほとんどがオプション取引の仕組みを理解していないとすると、そのうち相場が大きく動いて想像を超える損失が出た場合、大変な騒動になる可能性があります。実際にその予兆が出ているような気がします。すでにノーロード投資信託や投資信託の分配金に騙されるな!の管理人さんが指摘していますが、運用報告書(全体版)を見れば、すでに恐ろしいことが起こっていることが分かります。以下は四階建て毎月分配型投信として話題の「日本株アルファ・カルテット」の運用報告書(全体版)の「損益の状況」の項目です。

「有価証券売買損益」のところに注目してください。たびたび多額の売買損が出ています。利益を出している期もありますが、そうじて損失となった期の方が多い。さらに注目すべきは、利益と損失の度合いを比較すると、あきらかに損失の方が1ケタ多い。
もうひとつ見ておきましょう。これも有名は三階建ファンドである「好配当グローバルREITプレミアム・ファンド通貨セレクトコース」の運用報告報告書(全体版)の損益の状況です。

やはりすごい勢いで有価証券売買損を計上しています。だからREITが値上がりしても基準価格(分配金再投資)は、ほぼ横ばいという情けない運用成績になってしまっている。これがオプション取引の怖いところです。さすがに運用会社もまずいと思ったのか、毎月170円出していた分配金を6月から140円に減らしました。すると資金が急に流出しだすという滑稽な状況になっています。
しかし、分配金が減額されたぐらいはかわいいものです。これまで比較的相場が好調だったことでオプション取引による損が目立たなかった。しかし今後、相場が大きく崩れたときにはどうなるでしょうか(そうならないことを願っていますが)。おそらく分配金の減額にとどまらず、元本の大幅な毀損が表面化する可能性があります。そのときにオプション取引の怖さを理解していなかった受益者はなんと言うのでしょうか。やはり「騙された!」「お金返して!」なのでしょうか。情けない話です。
本質的には、自分が理解できないものに投資した受益者の責任が大きい。しかし、普通の人が理解できないような複雑な仕組みの投信を設計し、庶民に対して大々的に販売する運用会社と販売会社の姿勢はいかがなものか。私は、それは不誠実だと思う。フィデューシャリー・デューティーの観点から極めて不誠実だと思う。そういった不誠実さが、個人投資家が大きな損失を被った後でないと問題化されないとすると、なんともやるせない。そういう意味でも、「三階建て」「四階建て」毎月分配型投信というのは、極めて問題のある商品といえるのです。